【花束を君に贈ろう -kinsenka-】痛みを知らなかった少年が、痛みを知っていく物語──そんな彼に、言葉の花束を。【評価・感想】

“ほんとうのしあわせ”とはなんだろうか……。
この文章は、作中で繰り返し語られるこの一節です。
痛みを知らずに生きることなのか……。
愛しい人と、ずっと一緒にい続けることなのか……。
それとも――過去を消し去り、なかったことにしてしまうことなのか……。
そんな “心の中にある大切さ” を、丁寧にそしてふんだんに描いていくのがこの『花束を君に贈ろう -kinsenka-』です。
さまざまな感情に触れ、揺れ、考えながら進んでいく本作。
読み終えたとき、人は何を思い、何を感じるのか……。
それでは、『花束を君に贈ろう -kinsenka-』のゲームレビューをお届けします。
シア心の痛みに触れながら、少しずつその温度に寄り添っていく……。
どんなやさしさが待っているのか、そっと知りたくなるわ。
簡単なあらすじ
主人公・橘 才(たちばな さい)は、”心の痛み”を感じることができない少年。妹を傷つける者をためらいなく殺すほどの残酷さを持ちながら、自分に欠けた「本当の心」とは何なのかを知りたいと願いている。
一方、鎌原 竜起(かんばら たつき)は、裏家業を担う一族”紅緒家”の一員。少女・紅緒 祀(べにお いのり)の平穏な日常を取り戻すため、裏で血にまみれた仕事を続けている。
そんな三人はある出来事をきっかけに出会い、祀を見た才はそこで生まれて初めて「心が痛む」という感覚を知る。
その思いを確かめるため、才は裏家業を担う紅緒家の一員となり、無銘荘の住人として過ごし始める。
心を知らなかった少年と、心を背負って生きてきた少年。
二人が息つく先は、はたして――。
概要
| ジャンル | ビジュアルノベル |
|---|---|
| プラットフォーム | steam |
| 開発元 | Frontwing |
| 販売元 | Frontwing |
| 発売日 | 2025年5月29日 |
総評
本作は“心の物語”を丁寧に描き出しており、シーンに寄り添うBGMやSEの演出、そして心の内側に深みに触れるシナリオはとても魅力的です。
一方で――
同じ演出や構成が何度も繰り返され、やや冗長に感じる場面が多く見られます。また、初見では読みづらい漢字が頻出することや、文章全体のクセの強さもあいまって、読んでいて疲れやすさも感じました。
良い部分と惜しい部分の差が大きく、ノベルゲームというより“ライトノベル作品”を読んでいる感覚に近い作品です。
そのため、文章のクセが“合う人には強く刺さり、合わない人には厳しい”――そんな二面性を持った一作だと言えるでしょう。
また、本作には多少グロテスクな表現が含まれるシーンもあるため、そういった描写が苦手な方は注意が必要です。
『花束を君に贈ろう-kinsenka-』のここが印象的!
橘才が“心”を知っていく過程の描写
才は“心の傷”というものを知らない少年です。そのため、本作では才が少しずつ心を知っていく姿が最も印象に残ります。
最初、彼は心のことがよく分からず、ときには酷いことをしてしまう場面もありました。しかし、仲間たちと関わる中で、少しずつ“心が埋まっていく”ような描写が見られます。
たとえば、最初は仲が良くなかった竜起と協力して物事に対処したり、ふとした瞬間に表情を赤らめたりと、わずかながらも“心の変化”が積み重ねられていきます。




ですが、物語が終盤に近づくと一変して、それまでの才からは想像できないような言動や感情が現れます。
ネタバレ注意




その裏には才の“ある思い”があるのですが、ネタバレになるためここでは触れません。
プレイして実際に体験することで、彼が抱えていたその思いを知り、より深く“才の心”を理解することができるはずです。







その揺らぎがどんな形へ変わるのか、あたたかく見つめたくなるわ。
『花束を君に贈ろう-kinsenka-』の楽しさとは?
心に刺さる、一つひとつの言葉
『花束を君に贈ろう -kinsenka-』では “心の物語” がテーマであり、作中にはたくさんの深い言葉が散りばめられています。
一つひとつの言葉が自分の価値観とぶつかり合い、さまざまな想いを考えさせてくれる――そして、“ほんとうのしあわせとは何か” を自然と問い直すことになります。


この言葉には“罪を犯した人は幸せになってはいけない“という、たとえ一度の過ちでも、その時点で終わりだ――そんな倫理観がにじんでいます。
人間というのは不思議なもので、一度の失敗や罪だけで「もう駄目だ」と決めつけてしまいがちです。たった一回でも、そこから先の価値や未来を否定してしまう。
この言葉は、その“人間の極端な見方”を真正面から突きつけてくるのです。
他にも、こんな印象的な言葉があります。


この言葉には、“分からないことを理由に立ち止まらないでほしい”という願いが込められています。
答えが見えなくても、分からないなりに考え続けることで、どんな形であっても “自分なりの答え” に手を伸ばすことができる。それは諦めではなく、未来へ向かって一歩を踏み出すための姿勢なのだと感じます。
こういった言葉が作中に数多く散りばめられており、読んでいると思わず涙ぐんでしまう場面もありました。
言葉一つひとつが自分のエネルギーにもなる――心に響く文章というのは、読んでいてとても良いものだと感じました。







その想いが、自分の心に静かに響き渡り、向き合わせてくれるわ。
BGMとSEが“臨場感”を生み出す
BGMやSEはシーンごとの雰囲気をしっかり支えてくれています。
BGMはしんみりとしたシーンや、ふとした日常にはピアノがそっと寄り添い、落ち着いた癒やしの空気をつくり出してくれます。一方で、温かさのある日常シーンではギターのゆったりとした響きが流れ、穏やかな時間の“雰囲気”や“温度”を自然に演出していました。
SEも電車の音や風鈴の音といった音質へのこだわりが感じられ、まるでその場にいるような感覚に浸ることができました。
このように、シーンごとにしっかりと合ったBGMやSEが散りばめられており、プレイヤーを物語の空気へと引き込んでくれます。







心の奥に静かに潜り込み、気づけばひっそりと染み込んでいくわ。
『花束を君に贈ろう-kinsenka-』の気になる部分
同じ演出の多用による“読み手への負担”
本作は、同じ演出を使いまわす場面が多いため、読んでいてかなり疲れを感じる部分もあります。
まず気になるのは、回想シーンの多さ。
全体の半分ほどが回想で構成されており、読み手は「現在」ではなく「過去」を追う時間が長くなります。その結果、常に考え続けるような読み方になってしまい、どうしても疲労感がたまりやすくなってしまいます。
次に、似たような演出の繰り返し。
特に竜起の“不死身”という設定を活かした流血演出が多く、毎回戦闘シーンは大きな変化がなく、代わり映えしない印象を受けました。
さらに、似た場面が続くことで背景の変化も少なく、新鮮さや驚きが生まれにくい点も気になりました。
もちろん、こういった手法は作者の作風であり、一概に悪いとは言えません。
ただ、同じ演出が重なるとどうしても冗長になりやすく、人によっては“楽しさより疲れのほうが勝ってしまう”作品――そう感じられる可能性があります。







その積み重ねが、読み進める負荷へと静かに繋がっていくの。
キャラクターに感情移入しづらくなる見せ方
『花束を君に贈ろう -kinsenka-』は、二人の主人公の視点を切り替えながら物語が進む作品ですが、この一人称視点の切り替えが、時に強い違和感として現れます。
才の視点で物語がスムーズに進んでいる最中に、急に竜起の一人称へと切り替わることで流れが途切れてしまったり、主人公以外のキャラクターが突然一人称になる場面があり、感情移入しづらい瞬間がいくつか見受けられました。
また感情的に大事なシーンでも、不自然に一人称視点へ切り替わり、しかもボイスが入らないため、
キャラクターの“輝き”や“存在感”が薄れてしまうようにも感じました。
ノベルゲームという媒体では、音声は非常に重要な演出のひとつです。
そのため、途中で急に音声を切ったり、視点を過剰に切り替える演出が続くと、気持ちが乗らなくなり、心に残るはずの場面が“印象として弱くなってしまう”ことがあります。
ライトノベルのような文字媒体なら問題ないのですが、これはノベルゲームである以上、演出面はもう少し工夫が必要だと感じました。
文章の構成の悪さが目立つ
同じ演出の多用による“読み手への負担”の項でも触れましたが、本作は回想シーンが非常に多い作品です。そのため、物語の“現在”よりも“過去”が優先的に描かれる構成になっています。
結果として、
現在を少し描く → 回想 → 現在 → 回想という流れが繰り返され、読み手は状況を整理する間もなく大量の文章を受け取ることになります。
さらに、その最中に新しい用語が出現したりもするため、読み手の負担はより大きくなり、物語を理解するためにかなりの集中力が必要になってきます。
もちろん、こういった構成は“書き手の作風”であり、一概に悪いとは言い切れません。あくまで、自分が読み手として気になった部分としてここに記載しておきます。
プレイしての個人的な感想
全体的に見て、惜しい良作でした。
心の描写はとても繊細で魅力的なのですが、読みやすさの面では“疲れやすさ”を強く感じました。
シナリオライターの漆原雪人さんは、独特の世界観と手法を持ち、それが大きな個性にもなっています。
その作風を受け入れられる人なら、この『花束を君に贈ろう -kinsenka-』をより深く味わえ、楽しめると感じます。
自分は正直なところ、合わない部分が多く、回想シーンは何度かスキップしてしまいました。それは「読みたくない」からではなく、“読んでいて疲れてしまう”から。
とくに、唐突に差し込まれるよく分からないシーンは個人的には感情移入がしづらく、読んでいて辛さを感じる瞬間もありました。
また、個人的に気になった部分としては、以下の点があります。
- 無銘荘の住人である碧・目々・梅雨との関りがやや薄く、もう少し本編に絡んでほしかったこと。
- ヒロインの祀も序盤と終盤以外で関わりが薄く、やや寂しさを感じたこと。
無銘荘の住人たちやヒロインがもう少し物語に深く関わってくれていたら、作品全体の厚みや感情の広がりがさらに増したと感じました。
『花束を君に贈ろう-kinsenka-』の一部シーン紹介
ネタバレ注意








終わりに
『花束を君に贈ろう -kinsenka-』は、心に響く言葉や想いを“深く知りたい人”にはとてもおすすめの作品です。
ただ、全体的に冗長な構成が多く、読んでいると疲れを感じやすい部分もあります。そのため、プレイする際は小休止を挟みながら読むことをおすすめします。
そして本作は、Nintendo Switch版が2026年4月30日に発売予定です。興味はあるけれどPCを持っていない、という方でもSwitch版で気軽にプレイできるようになります。







ひとつひとつの言葉が心にそっと寄り添ってくれて……そう思える一作だったわ。

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